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わたしのソファー

M子



私、若い頃、スナックで働いてたの。
あなたそういう女ってどう思う?私は自分がそうだったくせに大っきらいだったわ。
見栄とお金のことしか頭になくてさ。客なんかいつも値踏みして、いい男で金持ってそうなら
スカート丈を短くしてさ、これからどおって言われるままについてったわ。

いろんな男がいてさ、中には美人の年増を連れて夫婦気取って、子供が3人いるのよなんて嘘ばっかり。すぐわかるって。
でもほんの一時間、私もその二人も演技して、二人とも満足して帰って行ったわ。
いったい何が楽しいんだろうね。

ある日好きな男に振られて、ほら落ち込んでるときって急に涙ぐんだりするじゃない。
そんな顔を見て、もの好きな男が翌日薔薇の花束持ってきて、君の涙に心打たれたとかなんとか言ってきたの。
昨日まで別の女が好きだったんじゃないの?っていう奴。
飲み屋の女としか出会いのチャンスがないんだろうね。
そういう男には興味なくてさ。

ただひとつだけ嬉しかったことがあってさ、だからね、ほんとはこれを言いたかったの!
あはは・・・だってさぁ・・・ひとつくらい好いことあるわよ。
あのね、でも結局は切ないんだけどね・・・。ここの大切なところに閉まってあるっていうか。






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初めて上司と入った店で、テーブルについたのが美紀と名乗る女だった。
香水の匂いが少しきつく、僕は少し顔をしかめた。
僕も、一緒の上司も、派手な女には興味がない。
美紀は25歳で顔立ちは化粧のせいか派手目で生意気、髪は長く、胸の大きく開いた紺色のワンピースを着ていた。
私キレイでしょうという自己主張の強い印象が鼻につく。

でも話をしてみると、意外と素直で笑顔が素朴な女だった。
僕の上司は単身赴任なので料理が上手く、だしの取り方から刺身の作り方まで饒舌に話していた。
それから音楽の話で盛り上がり、僕も上司も女も楽しく過ごせた。

それからは上司と二人、週に2回くらいはその店に行った。

単身赴任が終わり大阪へ戻った上司は、最後の記念に食事に誘ったらしい。
その後は週に一回程度、空いている曜日に僕は一人で店に行った。
美紀とは話がとぎれても、ぼんやり水割りを飲めるだけで良かった。

僕はあまり自分のことは話さなかったが、彼女いる?と聞かれて、隠すこともなく、いると答えた。

僕と彼女は職場恋愛で、僕は結婚も考えていた。
でも彼女は持病を抱えていて、今は休職し3か月前から入院している。
土日はもちろん、仕事が早く終われば見舞いに行き、その日あったことや職場での話をする。
その話の中で、大阪へ帰った上司の話から美紀の話になって、それ以来彼女は美紀の話をせがむようになった。
美紀も彼女も同じ年齢なので、美紀の生い立ちや趣味の話は彼女にとって興味深いものだったのだろう。
そこに嫉妬や羨望があったかどうかは、僕は知らない。気がついたとしても、女のそういう感情はさらりと流すのが賢明だ。

僕は美紀に対して、妹のような感情しかないんだと言い聞かせていた。
週に一度、数時間話すだけで、いったい何がわかるというんだ。
でも、美紀の言葉の端々や仕草に感じるものは、僕への抑えている気持ちを表しているようで切なかった。

僕はこれ以上、耐えられなかった。
入院している彼女が、美紀ちゃんに渡してほしいと、茶色の髪留めを手渡してきた。
それは誰かが彼女の誕生日にプレゼントしたもので、なぜ?と聞くと、自分にはしばらくの間、必要のないものだからと答えた。
美紀ちゃんの長い髪はとてもきれいでしょう?そう邪気のない目で見つめられて、いたたまれなくなり僕は目を反らしてしまった。

目を反らしてしまった事によって、もう僕は、耐えられなくなってしまった。

なぜ目を反らさずに、君の髪だってきれいなんだよって言えなかったんだろう。


僕は翌日、その髪留めと花束を持って、美紀に会いに行った。
席にはつかず、入口で美紀に手渡し、もう来れないから・・・頑張ってとひとこと言って帰った。
美紀の泣きそうな笑顔が辛かった。

きっとこの人とは愛し合えるという予感で満たされていても、全てが上手くいくわけではない。
心や体が、もっと深く触れ合う前にさよならしてしまうと、すっかり忘れてしまうか、あるいは一生心の中で大切にしまってあるか、そのどちらかのような気がする。
もうあれから20年も経つが、美紀は僕の事を覚えているだろうか。
日々の生活の中で、何かのきっかけで僕を思い出すことがあったなら、そしてもし温かい気持ちになったとしたら、
通りすがりの一人の男として、これ以上の喜びはない。



***************************************



ねぇ、今度はあんたの番だよ。ねぇ、ひとつくらいあるでしょ?大切な思い出っつうかさ~。
私は結婚して結局別れちゃったけど、もしあの時こっちを選んでたらとか、もっと頑張ればって思ったりもするけど、
どう思う?ねぇ、結婚てどう思う?一緒になってもずっと同じ気持ちなんてありえないんじゃない?
男と女ってさ、あんまり明るいところですべてをさらけ出すとつまんないよね。
私ってさ、家庭とかつくるの無理なんだよね。どうしても、女として見られてないって感じちゃうとダメなんだよ。
だから息子にはさ、女っていう生き物はどういうもんか、ちゃんときょーいくしてるつもり。
つーかさ、うちの息子ってかっこいいよね?



(・・・うん。Mちゃんも息子くんも、かっこいいよ。抱きしめたいくらい。)
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Commented by syenronbenkei at 2008-07-12 23:37
女って、わかんないや。
まあ、男もわかんないけどね。
つか、他人はわかんないや。
で、僕にとって女って4種類いる気がするな。
・やれたらいい女
・やれなくても一緒にいたい女
・一緒にいたくて、で、やれる女
・視界から消えてよって女
その線引きは、その時の気分しだいな気がする。
Commented by bunkasaba at 2008-07-13 00:23
小説になりそうですね。
会社でも飲み屋でも、人の話を聞くばかりだと疲れます。
女性の苦労話を飲み屋で聞くほどくたびれることはありません・・・。
Commented by at 2008-07-13 00:23 x
M子さん・・・いい女。何だか、うみちゃんとダブって見えちゃう。また、続きのお話楽しみにしています。
Commented by chirumegu at 2008-07-13 10:20
うみさん、凄いですね。
この記事を読んでいると、いろんな気持ちが展開されていきます。
「僕」の気持ち、「彼女」の気持ち、「美紀」の気持ち、M子さんの気持ち、神龍さんの気持ち・・いや、じゃなくて、もとい、そして、うみさんの気持ち・・・
読む人の受け取り方で、それが、自由に変わっていけるのが凄いです。
うみさん、小説好きだもんね。^^v
文才あるなぁ・・・うみさん。
凄いっ、あこがれる♥
Commented by umih1 at 2008-07-13 17:09
セイロンさん
わからないのが当たり前ですよね~だから、わかる部分が増える過程が楽しい場合もあります。
私にとっては男の人って2種類しかいないかな・・?
・生きていく時間を共有したい人。
・それ以外の人。
求めるばっかりじゃなく、与えられる女になれたらな~と思います。
Commented by umih1 at 2008-07-13 17:11
bunkasabaさん
どうせ飲むなら楽しく飲まなくちゃあ、せっかくの時間とお金が無駄というものですね。
ましてや苦労話なんて、お疲れに輪をかけてどっと疲れますねぇ。。。
Commented by umih1 at 2008-07-13 17:14
菫さん
M子と私は全然違うタイプだし、考え方も違うんですよ。でも彼女の話がずっと心に引っ掛かってて、ついついストーリー仕立てで書いてしまいました。続きは・・・どうかな(笑。
Commented by umih1 at 2008-07-13 17:18
chirumeguさん
珍道中はいかがでしたか^^?
お疲れのところ、こんな長い記事にお付き合いいただいちゃって・・・ごめんなさい。でもうれしいです。。
誰でも恋の思い出はひとつふたつ、あるものでしょうね。胸の奥にそおっとしまっているのでしょう。
でもふとした時、あぁと思い出したりして・・・なんかいいなぁと思って。。。私のばあちゃん(92歳)も、しきりに昔の恋の話をするんですよ。可愛いなぁ、と思います・・・。
Commented by おやすけ at 2008-07-13 20:48 x
>茶色の髪留めを手渡してきた・・・
これをする彼女って、すごいなぁ~・・と感心してしまったなぁ。
一番凄みのある人、これこそがうみさんなんでしょう?
でも、数年間で何もかも明るみに出たりしないのもありですよね。
そんな単純なもんじゃないとも思えます。人間だもの 笑
  みつを。
Commented by umih1 at 2008-07-13 23:29
おやスケさん
そうですね・・・受け取り方によっては挑戦状ともとれるし、自分の存在のアピールをする・・・という感じもしますよね。
私がもし彼女だったら、髪留めを手渡すようなことをするかもしれないな・・・。自分がここにいるという意味で。いや、もしかしたら純粋に、あげたくてあげたかも・・・いずれにせよ、本人にしかわかりませんね。
その点、美紀はそういうことを一切しなかった。そういうところのある女性っていいですね。
時間をかけないとわからないことって、たくさんありますよ、確かに。
しみじみ。 
しあわせは いつも自分のこころが きめる   みつを返し 笑。

Commented by bongu04200420 at 2008-07-15 00:24
いろいろな仕事によって苦悩も喜びも全く違いますな。当たり前か。すばらしい文章でした
Commented by umih1 at 2008-07-15 23:20
凡愚さん
ありがとうございます。
仕事によって、人間性も変わるような気がします。でもどんな仕事でも、成果は自分次第ですよね。
凡愚さんは、父、という仕事というか役割が増えたわけですね。苦しい時(さぁどんな時でしょう)があっても、生まれてきてくれただけでうれしいし、その笑顔をみせてくれるだけでも親孝行してますよね。
娘さんによって親修行できるわけですから、嬉しい仕事ですよね~^^
by umih1 | 2008-07-12 22:40 | | Comments(12)
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