ブログトップ

わたしのソファー

さっちゃん。



小学校1年から山形に住んでいた私は、4年生の時に、さらに田舎へと引っ越した。
同じ山形だが、バスは1時間半に1本運行、近所には店が1軒、自転車で10分かけて床屋が1軒、というとてつもない田舎である。

強烈な山形弁にもだいぶ慣れたころには、近所の同学年女子の4人でよく遊んでいた。
その中でもさっちゃんは、個性的な風貌をしていた。
いわゆる、クラスで「ブス」の代表といえば、さっちゃんだった。
牛乳瓶のような眼鏡をかけ、眼鏡をはずせば美人かというとそうではなく、細い一重だった。
色は浅黒く、お風呂にいつ入っているのか、髪はいつもベタベタしていた。

さっちゃんとは一番家が近かったし、自分と同じ貧乏な雰囲気(実際そうだったと思う)だったので、親近感があった。
さっちゃんの家の、暗くて広い台所で、よくドーナツを作った。
おおきな鍋にゆらゆらゆらぐ黒い油に、ひとつひとつドーナツの生地を入れる。
ふたりで、しゅわしゅわ泡立つドーナツを、無言で見ていた。

さっちゃんの狭い部屋が好きだった。即席で二人でクリスマス会をやったこともある。
机と細いベッドがあって、あとはクッション2個分のスペースがあるだけの小さな部屋。
小さいけれど、プライバシーが守れるさっちゃんの部屋に憧れた。
他の友達の部屋はとても広くて、机はもちろん大きなベッドにテーブルがあってもまだスペースがある。
でも私はさっちゃんの狭い部屋が好きだった。狭い秘密の小部屋のような趣があった。

ある日、私の家の台所で、二人で蒸しプリンを作ろうとしていた。
しかし、いざ蒸し器に入れようとしたプリンを、無残にも私はひっくり返してしまった。
さっっちゃんは呆然としていた私に、
「店でチョコレート買ってくっべ。しょうがないべ。」と言ってくれた。
日頃、私の特異な家庭環境に興味津々で首を突っ込んでくるところが苦手だったが、それを帳消しにするほどの救いの言葉であった。



小学校の時(今の小学生もそうだと思うが)、一年に一度 「ぎょう虫検査」を受けた。
小さな羽根を付けたキューピー人形が、自分のお尻にセロハンを当てているあのイラスト、あのセロハンで検査する。
そのぎょう虫検査結果の保護者宛ての手紙を、さっちゃんは先生から渡された。
ようするに、ぎょう虫を持っているのだ。さっちゃんは。
医者に行ったという証明書を先生に提出しない限り、それとなく「えんがちょ」状態である。
小学生にとって、ぎょう虫とはそういうものである。

さっちゃんの他に2人くらい、ぎょう虫を抱えた人がいたが、即行で医者にかかったらしく、先生に完治証明書を提出していた。
しかしさっちゃんは医者にいく様子もなく、今考えれば両親で農業をやっていてとても忙しかったんだろうと思う。
この繁忙期が過ぎてから医者に行こう、ということだったんだろう。

しかし、だんだん日がたつにつれて、自然に皆、さっちゃんとの距離をとっていった。
私も例外ではなく、生理的にどうしても近づけなかった。
それはクラス全体で、「無視」のような形になっていったかもしれない。

3月初め、私の誕生会をするために友達にカードを配った。
皆、誕生会を開くのが当り前で、私も祖母に頼み込み誕生会を開いてもらった。
さっちゃんをどうしようと思ったが、誕生会に誘わないなんてありえなかった。
いくらぎょう虫でも、やはりさっちゃんの気持ちを考えると、せめて誕生会は普通に接するべきだと思った。

誕生会当日、食事のあとプレゼントを開け、ゲームをして遊んだ。
他の女子たちはさっちゃんに対して普通に接していた。
でも実は、さっちゃんに触れないように、そしてさっちゃんが触れたものに触れないように、皆さりげなく慎重だった。
私も慎重にしていたが、なにせ自分の家である。さっちゃんが触れたものを覚えておいて後で拭こうと思ったが、そんなことは無理だと思いもうどうでも良くなっていた。

しばらくしてさっちゃんが2~3日学校を休んだ。
休んでいた日に先生がさっちゃんの事を皆に伝えた。
さっちゃんは医者に行ったんだからもうイジメないように、さっちゃんのお母さんからも相談があったんだぞ、とのことだった。

それからはまったく普通通りになった。 ホッとした。

数年後、高校生になった私に祖母が言った。
「幸子がクラスで孤立して辛かった時、うみちゃんが誕生会に呼んでくれた時は本当に嬉しかった。本当に救われた思いだったんです。ありがとう。」そう、さっちゃんのお母さんに言われたと。

あの誕生会が終わって数日後に休んだのは、もう限界だったからだろうと思う。
本当は、誕生会で皆が普通に接してくれたような演技に傷ついたのかもしれない。
あるいは誕生会では皆普通だったのに、翌日の学校では変わらずシカト状態で、さらに傷ついたのかもしれない。
どちらにせよ、私自身も、さっちゃんを傷つけてしまったのだ。
いくら誕生会に呼んで親に喜ばれたとしても。



中学生になり、さっちゃんとはクラスは別になったものの、同じソフトボール部に入った。
3年生の時ちょっとしたトラブルで、私はソフト部の一部の人からシカトされた。
自分にとって、中学校生活最大の危機だった。
しかし高校受験という人生のイベントに皆悩むようになってから、シカトは自然になくなった。
さっちゃんはその時どうしていたか。それを思うと、小学校のぎょう虫の件は帳消しになる。
因果応報ということなのかもしれない。
[PR]
Commented by sunnyfields at 2010-01-10 19:18
小学生の時、近所のケーキ屋さんからお誕生ケーキを運んでもらいました。(でき上がったら届けるよ~的な感覚で。)
その日は私の誕生会で、友達が数人集まっていました。
ケーキを運んできたのはそのケーキ屋の娘で、(よく覚えてないんだけど)多分私と同じクラスの子だったのでした。
その子は誕生会の様子を察して(玄関に沢山の靴や、みんなの笑い声とか聞えたりして)、涙を浮かべて帰ってしまった。
今でも忘れられない。。
母が自分で持って帰ってくればあんなことにはならなかったのに。。
多分その子は私に『お誕生日おめでとう』って言いに来てくれたのかも。
今では少し遠くに移転したそのケーキ屋(お父さんは亡くなって、お母さんとその子と二人でやってるみたい。)の前を通り過ぎるたびに思い出しては悪かったな。。と思います。。
Commented by bunkasaba at 2010-01-10 19:51
子供の頃は、悪意は無いのに、友達つきあいをしなくなってしまうことは、
ありますね・・・。

ぎょうちゅうダイエットもあるぐらいで、
むしろうらやましいような存在ですね。
ぎょうちゅうはどこへ行ってしまったやら。
Commented by kisaragi87 at 2010-01-11 08:08
私もうみちゃんに似たような思い出があります。
私も祖母に育てられたようなものだし
その子もお祖母ちゃんに育てられていてね、
そんなことからお互い家を行き来して遊ぶようになったのだけど・・
うみちゃんの記事を読んで、久しぶりにその子のことを思い出しました。

でもこの頃からお菓子作りの好きなうみちゃんの片鱗がみえかくれしてたのね^^
>「店でチョコレート買ってくっべ。しょうがないべ。」
忘れられない言葉かな、その時の情景が見えるみたい。
中学時代のことを思うと、どこかで物事って相殺されるのかなと思ったりするけど
少しほろ苦く、でも温かな余韻が残る記事でした。
Commented by umih1 at 2010-01-11 16:19
sunnyfieldsさん
そうだったんだー・・・ケーキ屋の同級生の女の子が持ってきたんだ・・
誰でも苦い経験てあるんだな・・
私は小学校高学年の頃、一番さっちゃんと遊んだな~と思って、急にしみじみ思いだしてしまったんです。この間、プリンを作ってるときに、あぁそういえばさっちゃんと作り損ねたっけ・・・としみじみ。
嫁に行って姓も変わってしまったかな。私のこと覚えてるかな。。なんてね~ 
昔のことを思い出すと、あれから何年もたってしまったんだな~としみじみします。
Commented by umih1 at 2010-01-11 16:23
bunkasabaさん
ぎょう虫ダイエット、どこかで聞いたことがあるな~。わざとぎょう虫を体で飼うのでしょうか?ぞーっ
自分の子供時代に子供で良かったなと思います。
今、自分が子供だったら、なんだか息がつまりそうです。
田舎で過ごしたことがとても楽しかったな~と思います。
冬はミニスキーを長靴にはめてよく滑ってました。
Commented by umih1 at 2010-01-11 16:31
kisaragiさん
子供のころの友達って、なんだか特別ですよね^^
セピア色の思い出(笑)。ずっと会わなくても、みんなそれぞれ頑張って生活してるんだろうな~と思ってます。
私は引っ越しを繰り返したので、私がさっちゃんの実家に行かない限り、さっちゃんは私がどこに住んでるのかも知らないと思います。でもちょっと会ってみたい気も・・・

そういえば、小学高学年のころから作るのは好きだったかも。
お弁当作って裏山にピクニックに行ったりしてました。
学校帰りに苺畑で、さっちゃんと盗み食いしたことが2回くらいあります(笑)。
by umih1 | 2010-01-10 17:04 | | Comments(6)
Days of Wine & Dogs
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31