ブログトップ

わたしのソファー

あの時は・・・

  

暖かな春の午後、私は娘の帰りを待っていた。
新しいランドセルを背中にくっつけて、黄色い帽子をかぶった娘の帰りを。
私は静かな家の中で、ぼんやり、待っていた。
雲が夕映えに染まり始めたころ、はっと気付いた。
なぜ、帰ってこないのか。
朝は集団登校で学校へ行くが、帰りはたぶん、途中からひとり・・・。
引っ越してきたばかりで、帰り道がわからないのだ。
慌てて自転車で学校への道を走る。
ぼんやりしている場合ではなかった。
私は何をしていたんだろう。
もし娘に何かあったら。

吐き気がする。
娘の無事と引き換えになるのなら自分の命すら差し出せる。

長い坂を登りきったところで、川面に反射する夕陽に目を細めた。
そこには、橋のふもとで行ったり来たりしている子供の姿があった。
どんどん近づくにつれ、その子供の詳細がわかってくる。
名札を下げたピンク色のブラウスにこげ茶色のスカート。
大きなランドセルにぶら下げたお守りが揺れている。
泣き出しそうな顔で橋の向こうを見て、渡ろうか渡るまいかうろうろしている。
「ありさー!」
声を張り上げ手を振ると、娘はハッとこちらを見て駈けてきた。
「お母さん!」
自転車を止め娘に駆け寄りきつく抱きしめる。
ごめんね、道が分からなかったんだよねと顔を覗き込むと、娘は泣き出してしまった。

もしかしたらという不安と、そうではなかったという安堵。
もう二度とこんな不注意は起こすまい。
この子を失う怖れ・・・恐怖感。
この感情は、失う前の感情。
もし失ってしまったなら、一体どんな感情になるというのだ。


しかしそれから二か月後、私は何も持たずに家を出てしまった。
娘すら置いて出てしまった。
それからずっと一人で生きてきた。
心に残っているもやもやした寂しさや後悔は、一度も紛れることなどなかった。
それは全て、娘を置いてきてしまったという事ひとつなのだ。
抱えていかなければならないものは誰にだってあるだろう。
しかし、自分の場合は自分で選んだ結果としての責任。
もう二度と、娘と話したり会ったりできるとは思っていない。

ただ、彼女に一言謝りたかった。
あの時はごめんね。あの時もごめんね。
いろんな”あの時”がある。
それは過去の出来事ではなく、現在も続いている自分の過失。

今でも、橋のふもとでうろうろしていた娘を思うと、身体中が締めつけられる。
でももうあの時のように探して迎えに行く事はできない。
あの時の娘はずっと不安な顔のまま、私の心の中をさまよっている。
時にはこちらを見ずに、諦めたような顔で俯いている。


。+.゚+・゜。+.゚+・゜。+.゚+・゜。+.゚+・゜。+.゚+・゜。+.゚+・゜。+.゚+・゜。+.゚+・゜。+.゚+・゜


~以上、知人の想いを聞いて書いたことですが、後日譚があります。
この知人は、大きくなった娘さんと連絡し合うようになりました。
触れたくない部分にも触れられるようになり、思い切って、家を出て行く前のあの事件~帰り道がわからなくなったこと~のことを謝ろうと思ったらしいのです。
彼女としては、あの事件の後まもなく家を出て行ってしまったので、
どうしても言い出しにくい事ではありました。
でも話し始め、何度も謝りました。
すると娘さんはこう言ったそうです。
「なんで謝るの?あの時私はとっても嬉しかったんだよ。
お母さんが迎えに来てくれて、とっても嬉しかった。」


親が感じる以上に、子供は親の事を愛しているのかもしれません。
親がいてもいなくても、子供がいてもいなくても、
人は人に対していろんな”あの時はごめんね”があるでしょう。
でもそれでいいんですよね。
良いも悪いもないんです。



c0141335_19393627.jpg




わたしは、リースが大好きです。これはキットで購入して作ってみたものです。
家の中には一体何個あるでしょう。気持が和みます。
[PR]
Commented by at 2008-11-04 00:26 x
途中まで、うみちゃんの話と思って読んでたので、ドキドキしていました・・。色々な人生がありますね。そのかたも、また娘さんと会って話せて、背負ってたものを下ろせて良かったです。

これからは、クリスマスリースを飾るのが楽しみですね♪
Commented by sunnyfields at 2008-11-05 11:10
私もumiさんのことかと思いました~色々あるよね~とか。
吐き気がしたってとこ、気持ちが伝わってきてドキドキした。
娘さんと会えるようになって何より。
あの時はごめんねってあるよね~

リースとってもかわいいです。野原で作ったような。
リースの本を読むのも好きなんですよ。
気持ちが和む、私もです♪
Commented by umih1 at 2008-11-05 21:09
菫さん
子供を置いて出て行ってしまうというのは、私には考えられないな~と思うのですが、人それぞれの事情やらで仕方のないことですけどね・・。
知人はいまだに重荷があって、娘には苦労をかけてしまったという気持ちはずっと変わらないみたい。でも普通に話すことができているので良かったなと思います。
あぁ!もうそんな季節ですね。リースといえばやはりクリスマスリースですよね^^
Commented by umih1 at 2008-11-05 21:34
sunnyfieldsさん
あ~やっぱりね~紛らわしいよね(笑)。でも子供を置いてでていくなんて、とてもじゃないが出来ましぇん!
子供に何かあったらと思うと、自分の体の機能が止まってしまう感じかな。まぁでも、知人はとにかく会って話せて、まめにメールもしてるようだし良かったなと。やっぱり親子なんだなと。
サニーさんのとこで前に見たリース、とても素敵だったな。
造花で作る方が多いんだけれど、生花で豪華に作ってあるのもいいよね。お花屋さんとか雑誌に載ってあるのを見ては、ため息ついちゃいます。
リースって丸い輪だからかな~和むぅ。
by umih1 | 2008-11-03 18:30 | 思う事 | Comments(4)
Days of Wine & Dogs
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31